『涼宮ハルヒの完奏』ハイレゾ配信記念! 「ハレ晴レユカイ」「God Knows・・・」ほか作詞の畑 亜貴さんインタビュー

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こちらのインタビューは、『涼宮ハルヒの完奏~コンプリートサウンドトラック~』の配信開始となった2016年7月7日より音楽配信サイト“mora”にて公開されたものです。話題となったこちらのインタビューをこの度、リスレゾ開設記念としまして掲載させていただくこととなりました。作詞家・畑 亜貴さんの『涼宮ハルヒの憂鬱』への愛情がたっぷりと詰まったロングインタビューです。作品のレビューと併せてお楽しみください!

 

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『涼宮ハルヒの完奏~コンプリートサウンドトラック~』
レビューはこちら

©2006 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団 
©2007,2008,2009 谷川 流・いとうのいぢ/SOS団 
©2009Nagaru Tanigawa・Noizi Ito/SOS団


ラノベ・アニメ界を作り変えた伝説の作品『涼宮ハルヒの憂鬱』アニメ放送10周年を記念したコンプリート・アルバム『涼宮ハルヒの完奏~コンプリートサウンドトラック~』配信開始! TVシリーズの劇伴を初CD化した他、社会現象となったエンディング曲「ハレ晴レユカイ」を始めとしたTV・ラジオテーマソング、挿入歌を全てフルサイズでコンパイルしたファン待望のアイテムです。

そしてmoraではこの度、アニソン専門誌『リスアニ!』とタッグを組み、収録曲の全作詞を担当した畑 亜貴さんへのインタビューを実施! アニメ界・アニソン界の常識を覆した伝説の作品『ハルヒ』が後世に与えた影響、また制作時のマル秘エピソードまで!? 現在の畑さんのご活躍へと続く歴史を紐解く、貴重な証言満載のインタビューになりました。全世界のアニメファン必見のロングインタビュー、じっくりとお楽しみください!

聞き手:澄川龍一(リスアニ!編集部)

 

最初はOP曲はまったく違う歌詞を書いていました

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──今回は10年前のTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のあのムーブメントがいかにして起き、シーンに影響を与えていったのかというのを、当時の証言をもとにを伺っていければと思います。というわけでまずは『ハルヒ』のTVシリーズから10周年というわけなんですけども。

畑 亜貴(以下、畑) 早いですよね。もう「ふっ」って感じで、目をつむって開いたら10年経ってた感じで(笑)。

──正直私やファンの皆さんも同感だと思います(笑)。

畑 恐ろしい……フレッシュさとか、ピュアさとか、この10年で失ってきたものを考えると(笑)。

──いやいや、得たものも多いと思いますよ(笑)。やはりご本人としても「もう10年経ったんだ」っていう印象が強いですか?

 そうですね、しかも派生の作品に関わり続けているので、あまり分断された感じがなくて。今日までずっと繋がり続けてるので、「10年前の」っていう歴史感とか、さかのぼる感覚があんまりないんですよ。

──アニメの2期が2009年で2010年には劇場版もありましたし、タイム感でいうとそんなに離れてないんですね。いきなり聞いてしまうんですけど、『ハルヒ』以前と以降で畑さんの中で変わったことってありますか?

 仕事量(笑)。

──やはりそこが(笑)。如実でしたよね。

 人間こんなに忙しくなるんだっていう(笑)。それまでも結構忙しいつもりだったんですけど、なんか嵐に巻き込まれたような感じになって。仕事でも生活でも自分のことを考える暇がまったくない状態で、その流れにただびっくりしているうちに10年経っていたというか。

──なるほど、それを継続したりアップデートするうちにこの年数が経っていたと。ちなみに畑さんが『ハルヒ』のワークスで最初に手がけたのは「冒険でしょでしょ?」ですか?

 どうだったかな? 「ハレ晴レユカイ」だったかも……。

──作詞するときに原作や資料を読まれたと思うんですが、ファースト・コンタクトの印象は覚えていますか?

 最初に読んだときは「自分はこの作品を好きになって、魅力をみんなに届けなきゃ」っていう意識があって、とにかく愛するモードになってたので、印象というか「よしわかった、やろう」って感じでした。SOS団のみんなは面白い子たちだったし。

──原作小説の時点で話題にはなってたんですよね。それもあって制作に携わっていた方々も気合いは入ってたものの、「これは確実に売れる!」という確信まではなかったと聞きました。

 だから逆に自由度が高かったのかもしれない。

──なるほど、最初の段階で楽曲や作詞に関する細かい指定などはあったんですか?

 10周年にあたって色々思いだしてたんですけど……指定というか、最初はOP曲はまったく違う歌詞を書いてました。

──へぇー!

 もっと「ファンタジック寄りに」っていう要望があって、そういう雰囲気で書いてたんですけど、書きながら自分の中でベストじゃないというか、なんか違う気がしてて。ちょっと自由な形で書いてみようと思って、今の「冒険でしょでしょ?」の詞を書いたんです。そしたら自分でも腑に落ちた感じがして「あ、こっちじゃないかな」と。

──なるほど。

 最初の詞はもっと世界観自体をとらえるっていう意識だったんですけど、「冒険でしょでしょ?」の場合はひとりの女の子の心に寄りそってる部分が大きくて、自分でもこっちの路線がいいなと感じて。

──サウンドや平野 綾さんの歌も相まって、ものすごくキャッチーながら、ハルヒ的なとらえどころのなさを感じたんですよね。作詞をされて、平野さんの歌を聴いて、放送を見たうえでの感想はいかがでした?

 「やっぱりこっちだったな」っていうのをすごく実感しました。小説を読んだ時点ではまだクッキリしてなかった涼宮ハルヒ像が、OPテーマ、EDテーマを作って、平野 綾ちゃんの声とサウンドのキャラクター、彼女自身のキャラクターと相まった時に不思議な感動を覚えて。売れる売れないの話じゃなくて「これは何か始まるのかもしれないな」っていう感覚が、原作やアニメの内容ともシンクロしてたと思うんですよ。このシンクロを感じる時っていうのがたぶん奇跡が起きるときなのかなと思ってて。作っている側も観る側も、「あれっ?」って思ったエネルギーをみんなが感知するというか。

──その予感は実際に第1話が放送されて即座に現実になったわけですよね。誰もがよくわからないままに目撃して耳にして、瞬く間にすごいうねりになっていきました。EDテーマの「ハレ晴レユカイ」は、おそらく畑さんのこの10年間でもっとも話を聞かれることが多かった曲だと思うんですが。

 そうですね(笑)。

──改めてここでもお話を伺いたいんですが、EDテーマは主演キャストが3人で歌う楽曲ということで、こちらは作詞の際にはどんなイメージを持っていましたか?

 何度か話してるかもしれないんですけど、EDテーマの作詞ではオペラの「蝶々夫人」のイメージがなぜか思い浮かんだんです。「蝶々夫人」の中では女性が「何か起こるんじゃないか」って待ってるんですよ。でもハルヒたちはそういうときに待ってないなと。この子たちは何かを自分で引き寄せる、作ろうとする、掴もうとするっていう「蝶々夫人」との対比みたいなものを考えていて。「アル晴レタ日ノ事」っていうテーマは同じだけど、「今の女子は待ってないよ」っていうことが書きたかったんです。

──ハルヒ以前からもありましたけど、畑さんの描く少女像っていうのがこの曲でも出てると思うんですよ。

 ですね(笑)。「待ってないよ」っていう好物の女子観が。

──振り返ってみれば前年度の清水 愛さんの楽曲でもその女子観はありましたし、女子といえば『舞-乙HiME』のEDテーマ「乙女はDO MY BESTでしょ?」などもありました。この頃から「でしょ?」って言ってますからね。

 そうだ、ほんとだ(笑)。

──確かにSOS団の女子3人って先ほどもおっしゃった「待たない、引き寄せる、自分から行く」っていう、観てる側が引き込まれるような魅力がありましたね。

 出てくる女子たちがみんな見ててワクワクするっていうかね。何が起きてもおかしくないし、何を起こされてもいいかもしれないっていう。「許しちゃうし、ついてっちゃうよ」って気持ちにさせてくれるんです。

「当時の私は、このあとキャラソンを作り続けるということをまだ知らなかったのです……」

──当時を思い出すと、とにかく「ハレ晴レユカイ」はED映像も含めてあらゆる場所で流れて、あらゆる人がコスプレして踊ったりして、このOP/EDだけを切り取ってもものすごいムーブメントが起きていたと思います。アニメも1話の段階で大きな反響があって、2話からOP/EDが流れてさらに大きいリアクションがありましたが、そういう2006年4月の熱というか反響っていうのは肌で感じたりしてましたか?

 キャラソン・シリーズを作ることになったときに初めて感じました。それまでは実感としてはそんなに……。「なんか人気出てきたらしいよ」ぐらいの温度感で聞いてたので「それはよかった」って暢気に構えてたんですけど、そこから怒涛の日々が始まるなんて……。「当時は思っていなかったのです……」ってナレーション入れたいぐらいですよ(笑)。

──そうなんですよね(笑)。これが後に畑さんが切れ目なく手がけることになるキャラソン・ワークスの先駆けになるという。

 「当時の私は、このあとキャラソンを作り続けるということをまだ知らなかったのです……」って感じです。ここだけフォント変えておいてください(笑)。

──変えておきます(笑)。しかしキャラソン展開自体はハルヒ以前もありましたが、ひとつの作品でこれだけ曲が出る、しかも後の『ラブライブ!』のように音楽に特化したわけでもない作品が、キャラクターひとり一枚シングルを発売するっていうのは異例でしたね。

 長門有希ちゃんのシングルとかは正直キツかったですね(笑)。「そんなに喋らないのになんでこんなに音数多いの!?」って(笑)。キャラソン制作に関してはここでガッチリ鍛えられた気がします。

──確かに長門はハルヒ、みくると3人寄ってれば形にはなりますが、ひとりの状態だと掴みどころがないですよね。

 『あずまんが大王』で結構な数のキャラソンを作ってきて「よし、いけるな」って思ってたんですけど、まさかここまですべてのキャラに曲が作られるなんて……しかもカップリング曲まであって。朝倉(涼子)さんなんて人柄とか内面が覗ける場面ってあったっけ? みたいな(笑)。

──それがすべてヒットするのがまた凄いというか。

 おかげで妄想力がたくましく発達しましたよ(笑)。「このキャラはこういうことは言わない」とか、「こんなこと思ってるかもしれない」っていう二次創作的な部分ですね。

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──曲を聴いてて本当に彼ら彼女らが言ってる感じがするというか、畑さんの妄想力と二次創作力の賜物ですよね。あと1期で大きい存在が「God knows…」だと思うんですが、この曲もまた後の作品群に大きな影響を与えることになります。

 そうですね、たぶん『ハルヒ』の曲の中では一番カラオケで歌われた曲なんじゃないかと思います。

──聞くところによるとこの曲が収録されてる『涼宮ハルヒの詰合』は未だに売れてるらしいですからね。これって最初にオーダーが来た時には文化祭でハルヒがバンドで歌うということは決まってたんですか?

 決まってました。

──この曲は「冒険でしょでしょ?」で平野さんが歌うような世界観、「ハレ晴レユカイ」の女子観とはまた違うベクトルですよね。

 そうですね。これはもう「文化祭をやり抜こう」「文化祭で彼女たちがやるべき曲を作ろう」っていう事を決めてました。だからリアリティがあった方がいいなと。歌詞に「背伸びした10代の女の子が、自分の心よりもちょっとだけ大人になってるつもりなんだけど、実際はすごく子供」っていうギリギリ感を入れたくて、言葉のチョイスなんかも結構特殊だと思います。

──映像的にもあのライブシーンはもはや伝説と言っていいというか、アニメでのライブ描写、楽器演奏描写の革命だと思います。

 最初に観た時本当にそう思いました。あまりにリアルすぎて「顔が怖い!」って思いましたもん(笑)。でも「こうなるよな」って納得できるというか。

──歌詞もそういう歌詞ですよね。こういう顔になるような歌詞っていうか。

 そうですね。「そういう感じで歌っちゃうよね」みたいな。

──でもそういうオーダーはなかったわけですよね?

 特にはなかったんですけど、すごく出したい「ゆらぎ」みたいなものがありました。自分の心とか立ち位置をどこに持っていっていいかまだ分からない少女の「ゆらぎ」というか。

──あの歌詞を女子高生当人が書いてるという設定も含めての「ゆらぎ」ですね。

 当人が書いてるんだけど、どこか統合性がない。そういう歌詞の未熟感みたいなものって人の心をくすぐると思うんですよ。

──そうやって畑さんの作詞のスキルや、音の使い方とかの技術をある種デチューンする作業って、後に『ラブライブ!』でも登場するわけですよね。「これは畑 亜貴が書いてる歌詞じゃない」感覚というか。

 そうそうそう(笑)。そうですね。

──そう考えるとキャラクターに対する妄想力や二次創作力の部分や、少女観という部分などの、畑さんならではのエッセンスって「涼宮ハルヒの憂鬱」の中に詰め込まれてる気がしますね。それから、後に数々の仕事でタッグを組むことになる作曲家の方々、特に神前 暁さんとはハルヒが初仕事だということで。

 そうですね。

──サウンドを聴いて「この人すごいな」って思ったりする感覚ってありましたか?

 ファンクが好きだって聞いて、「あ、気が合うわ。もう大丈夫だ」って思って(笑)。

──自分がやりたかったり良しとするものからは大きく外れてないと(笑)。

 共通言語がひとつあるとわかって、すごくリラックスできました。でも彼もこの仕事はすごく大変だったと思います。

──TVアニメで劇伴まで手掛けるのが初めてだと言ってましたね。

 お互いにゲーム・ミュージック出身だという部分でもなんとなく繋がるものを感じて。

キャラクターと本人のいいところがクロスしている部分をすくい上げるのが役割

──キャスト陣もフレッシュな人が多かったわけじゃないですか。特にこれ以降アーティストとして歌詞を手掛けることになる平野さんや茅原実里さんなど、特に茅原さんは長門のキャラソンがきっかけで再デビューするという流れもありました。そういったキャストの方々との初対面での印象っていかがでしたか?

 平野 綾ちゃんは……「太ももと太ももの間から向こう側が見える……」って(笑)。

──足が細いってことを言いたいでよろしいんですね? 唐突な表現でびっくりしましたけど(笑)。

 ごめんなさい(笑)。彼女はフレッシュなイメージなんだけど芸歴は長いじゃないですか。で、茅原実里さんもそうですけど、何か固い覚悟があって声優として、アーティストとしての道を進むんだろうなと、そう思ったらどうしても売れてほしいって思うんですよ。だからどうやれば本人の魅力を伝えられて、キャラクターとの親和性も保ちつつ、アーティストとしての可能性を広げていけるだろうかと、作詞のお仕事をいただくたびにすごく考えてました。

──そこは作詞家として考えますよね。

 とにかく当時の「今」が、あの瞬間が大事だろうから、今すごくみんなの心にも本人の心にも響くものを作って、彼女たちが人として大きくなってほしいなぁって。

──以降の作品でもそういった経験はあると思うんですけど、普通に声優さんがアーティストデビューして作詞を依頼されるよりも、先に作品を手がけて、その後に出演していた方個人を対象に歌詞を書くっていうプロセスは、思い入れとか感情の動き方がおそらく違うと思います。平野さんや茅原さんに関してはそういった想いって特に強かったんでしょうか?

 私も強かったし、やっぱりその時の私に求められているのって、ファンの方々の期待や想いも裏切らないことなのかなって思ってて。演じたキャラクターと本人のいいところがクロスしてる部分をすくい上げるっていうのが私に求められてる役割なんだろうと。たとえばアーティスト本人に寄った気持ちとかって、本人が書いたり、他の作家さんが担当する部分なのかもなと。私の役割としては、寄りすぎることなく、キャラクターも活かしつつ、アーティスト性も出すミックス感は大事にしようと思ってます。

──アーティストの曲なんだけど、作品やキャラクターの何かがうっすら見え隠れする感じというか。

 そうなんですよ。「あれはあれ、これはこれ」っていうのじゃなく、「ちょっと重なってるかも」っていう期待を裏切らないことかなと。

──当時の平野さんや茅原さんを見ていると、これだけ作品として大ヒットして、アーティスト・デビューする前から武道館など大きなステージに出たりしてましたけど、浮かれてる感じがなかったというか、覚悟やプレッシャーを感じたんですよね。

 浮かれてる感じは全くなかったと思います。

──ちゃんと『ハルヒ』を背負ってる感じがして、皆さん強いなと思ってたんです。男性陣も同じで、小野大輔さんも古泉の「まっがーれ↓スペクタクル」が相当なインパクトがあったというか、男性キャラのキャラソンっていうのはいかがでした? 女性キャラとは違うと思いますが。

 男性キャラの時は女性ファンが聴いてドキッとしてほしいなと思って。だから普通にキャラソンとしても成立するんだけど、女性が聴いた時に刺激を感じちゃうようなアピールはしたいと思ってましたね。

──ただキョンも古泉もイケメンではありますけど……。

 まあ性的魅力方向かというと……(笑)。

──そこですよね(笑)。

 好きな方は好きなんだろうなっていう、マニアライン上にいる感じというか(笑)。

──どうしても三の線が出てしまう感じというか。そこが絶妙ですよね。かっこよさも出すんだけど、ハルヒらしいコミカルさも出てるというか。

 いやー、やっぱり男子の方が難しいですよね。

──小野大輔さんも今年武道館でやられましたけど、彼特有の、あんなにかっこいいのに滲み出る三枚目感ってここらへんで形成された気がしますね。

 確かに。そういう部分もあるかもしれないですね(笑)。

ただの延長線上だと思われるのは悔しいですし

──初めて畑さんとご一緒した2007年頃のインタビューを読んでると、まあ「忙しい」とかそういう話が出てくるじゃないですか(笑)。「ほんとに寝てるんですか?」「畑 亜貴は何人いるんですか?」みたいな。そういうのもハルヒが出発点というか、ある意味では罪つくりな作品というか。

 ほんとにね。過労で入院もしましたし。

──1作品で何曲作れるかっていう基準を作ってしまった部分もあるじゃないですか。

 「これぐらいはできるよね」って自分の中のラインを作っちゃってね(笑)。

──基準っていうのは本当にその通りで、ハルヒという作品がキャラクター・ソングの作り方とか、複数のキャラが歌う曲の作り方であるとか、その後のアニメ音楽のあらゆる指針になったと思います。そしてそこから3年後の、2009年のアニメ2期、これは1期の自由にやってみようっていう空気とはベクトルが真逆になったと思うんですが。

 そうですね。「期待に応えろよ」っていうプレッシャーに次ぐプレッシャーで。

──アニメ作品の2期ものは多く手がけられていますが、『ハルヒ』ってちょっと種類が違うというか、そこのプレッシャーというのは当時感じられていましたか?

 それはもうガンガンに感じてましたけど、作るうえでは気にしても仕方がないことなので(笑)。気にすると参っちゃうので、なるべく気にしないように。

──そうして生まれた2期のOP/EDですが、満を持してハルヒの2期が始まるって期待感の中で、それをさらに追い越すようなアグレッシブさがあったというか。特に「Super Driver」が顕著だったんですけど。

 「Super Driver」と「止マレ!」はどっちも好きなんですよ。あのプレッシャーの渦中でよく頑張ったなと思ってて(笑)。

──特に当時の平野さん本人の、サウンドがよりパンキッシュになっていったイメージにピッタリだったと思うんですよね。

 彼女がやりたかったことも、2期の勢いも含めつつ、作品はもっと過激になっていくんだよっていう、すべての要素を盛り込めたな、とは思っています。平野 綾ちゃんも勢いというか、何かにぶつけるようなエネルギーがすごく湧いてた時期で、まさに曲とシンクロしていたなと。

──平野さんを見ていて、ふとした瞬間に彼女とハルヒがイコールで結ばれるような、同一人物的な感覚があったんですが、それがこの曲にはとても強く出ていると思うんです。ハルヒの曲でもあり、平野さんの曲でもあるという印象がどっちも前に出てるというか、そういう感覚は「止マレ!」からも強く感じました。

 私も「止マレ!」好きなんです。とにかく仕掛けを作りたいと思っていたんですが、「ハレ晴レユカイ」がみんなに受け入れられて、次に「あれを超えるものを」って思ってる時点でダメだよなって自分で分かっていて。とにかく違う方向から歌詞でびっくりしてもらいたくて、「止マレ!」っていうタイトルもつまり「止まらないし、止まるなよ…!」っていう意図をあの3人に振ってもらっているっていう(笑)。そういう背景とか仕掛けの部分では上手いことやれたなと思います。

──2期としてアップデートされたというか、3年の期間を経たギャップがすごくハマってましたね。

 「もう2006年じゃないから! あれ終わってるから!」っていうね。

──歌っている本人の時間も進んでる雰囲気がすごく感じ取れたというか。

 そこに「でも今回も面白いからさ!」っていう宣言も込めてありますし。

──どうしても2期って斜めから見られる印象がありますけど、楽曲としてはそこを改める感覚もあり。

 ただの延長線上だと思われるのは悔しいですし。

──そこは2期ならではというか、ハルヒ特有という感じもしますし。

 そう、世界観的には冒険していかなきゃっていう気持ちもあって。

──それが2009年の出来事で、2010年には劇場版もあって同時に『ラブライブ!』も始まってたりもする背景もあり……。

 そうですね、地続きですね。

──ここで改めて言うことではないですけど、本当に休みがないですよね(笑)。

 ほんとにね、頑張ってますよね私(笑)。

──そうでしょうね(笑)。僕が言うのも何ですけどだいぶ頑張ってると思いますよ(笑)。

 だからね、そろそろ憎まれない程度に後進に道を譲っていかなきゃなーとは思ってるんですよ。

──なんでそんな後ろ向きなんですか(笑)。

 だってほら「いつまでやってんだよ」って感じになったら嫌だし(笑)。

ハイレゾって私の中では宝物的な存在だと思ってる

──10年前の楽曲がこうして再発になって、しかもハイレゾとしても世に出ることになるっていうことはご自分の作品としてはいかがですか?

 やっぱりうれしいですよね。音を追究して聴きたいって気持ちで買ってくれるわけじゃないですか。それは光栄ですよ。ハイレゾって私の中では宝物的な存在だと思ってるところがあって、追究して「これが自分の宝物だぞ!」って、すごく良い状態で手元に置いてくれるものだという感覚なんです。

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──同じ曲をCDで買ったうえで配信でも買ってくれて、音楽の楽しみ方や喜びの形はひとつじゃないわけですよね。

 そうそう、私は両方買うタイプ。

──その喜びというか、宝物を増やしていく感じというか。

 そう、それにハイレゾが加わる感じ。あとね、ふらっと配信リストを眺めてて「どうせダウンロードするなら……」てハイレゾをポチッと買っちゃう衝動というか。

──ある種の初期衝動ですね(笑)。今回のサントラについても、元々1期はDVDの初回特典で、2期に関してはCDとしての発売がなくて映像つきのDVDサントラだったので、純粋に音源としての発売が待たれていたという状況があって、こういった再発感もアニメの音楽シーンとしては新鮮ですよね。

 そうなんですよね。まとめて聴けるのもラクですし。

──それこそプログレの再発みたいな感覚ですけど。

 そうそう! あれも買っちゃうんですよ(笑)。リマスターとか書いてあると、「おっ、リマスターか!」って思って。

──「アナログのジャケットを完全再現!」とか書いてあって(笑)。

 そうなんです! あの紙ジャケの場合がヤバいですね。オリジナルよりも小さくなってるのに、紙ジャケっていうだけでなんかありがたい気持ちになったりして(笑)。

──でも配信を買うっていう行為も、ハイレゾを買うっていう行為も、今は抵抗がない人も増えてるじゃないですか、ちょっと前は「物理的に残らないんでしょ?」とか「ブックレットないんでしょ?」とかって難色を示される場合がありましたよね。

 最近逆にびっくりしたのが「え? パッケージって邪魔じゃない?」って言われたことがあって。

──棚をコレクションで埋めてく感じが伝わらない(笑)。

 今は物的に手元にあることが「えー?」って思われて、価値観というか時代が変わってきてるなっていうのは感じてます。でもやっぱり物理的に手元にあった方がいいと思うんですよ。

──棚にささっている方が。

 最近新しくコンパクトなCDプレーヤーを買ったんですよ。それをベッドの横に置いといて、雨が降った時のためのCDが自分の中であって、雨の日にはそれを棚からいそいそと出してきてプレーヤーにかける手順にうっとりするっていう。

──ちょっと前まではそれアナログレコードの楽しみ方でしたからね。

 それが今やCDですよ。

──そうやってフォーマットが変わっても、音楽を聴く行為に関しては変わらないというか、CDの売上は落ちていると言われますけど、配信であれデータであれ音楽そのものは残っていくんですね。

 もう私の中では順番が変わってて、配信で先に買ってから「あ、CD買ってなかったわ」ってCDを買うっていう(笑)。

──今は先行配信とかありますからね。

 そう、配信の後で「忘れてた」っていそいそとCDを買うと、なんかズッシリ満足感を得られるというか。

──CDだけを買うのとは違う感じというか。

 また違った感じの、真に手に入れた感覚というか。「お前の心と体を両方手に入れたぞ!」っていう征服感があるんですよ(笑)。

──これは音楽の聴き方として同意してくれる人は多いと思うんですよね(笑)。配信を買う動機になるというか。良い話だなあこれ(笑)。

 楽しいですよね。今はCDプレーヤーを2つ買い足して、ベッドの横以外にも置いてあって、場所によって聴きたいCDを何枚か置いといて「よーし、ビール飲むか!」って時に聴きたいやつを選ぶみたいな楽しみ方もしてて。一応デジタルプレーヤーとBluetoothスピーカーもあって使うことはできるんですけど、それとは別に3人の妻を持ってる富豪みたいな感覚が味わえるというか(笑)。

──家に常に3人の妻がいる感じ(笑)。

 「平等にかわいがってやろう」みたいな。「あいつは最近構ってやってなかったな」みたいな、いい気分です(笑)。

──そうやって豊かになるというか、聴き方も千差万別になっていきますし、配信で気軽に聴けてCDの良さも再発見できで、共存していくのは良いことだと思います。

 こうやってハイレゾになって改めて聴くのもうれしいですし。

──すっかり脱線してしまいましたね(笑)。最後に畑さんにとって『涼宮ハルヒ』という作品とその楽曲はどんな存在ですか?

 自分の仕事人生に「ハルヒ以前と以後」という形の基準ができたというか、大きな節目になった作品です。

──2006年に楔が打たれたというか。

 ほんとにそう思います。ありきたりですけど、出会えてよかったと思いますし、いろんな曲を作ることができて、こういうキャラソンとかイメージソングに要望とか需要があって、楽しんでもらえるんだっていう確信が持てて……ハルヒ以後は何が来ても割と怖くなくなったというか。

──いかに大きな存在かというのがわかりました。今の10代だともうリアルタイムで知らない人もいるでしょうし、記録や文字情報としてだけ認識してる人も多いと思います。そういう方々が当時の熱量を感じる手段として、未だにこうしてリリースがあったり、カラオケで歌われたり、こういったインタビューが役立てばと思います。

 いいですね。こんなんで大丈夫でした?(笑)。

──大丈夫です!

 あ、大丈夫なんだ(笑)。じゃあよろしくお願いします!

 

_J7A2678畑 亜貴 PROFILE

東京都出身。1990年から音楽家としての活動開始。
ゲーム、アニメ、声優アーティストを中心に多彩な作風で楽曲を提供中。
作詞を担当したTVアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」「ラブライブ!」の主題歌はゴールドディスク認定され、作詞・作曲でこれまでに提供した曲数は1500曲を越える。
また2013年には“NHKみんなのうた”で、畑 亜貴 作詞・作曲・歌唱の「図書館ロケット」が放送されるなど、アーティストとしても、アニメ&ゲーム作品等へ参加している。
最新作はランティスからTVアニメ『ビッグオーダー』ED主題歌「毀レ世カイ終ワレ」をリリース、自身のレーベルMETROFORTE Recordsからは、異端の音楽性を発揮するオリジナル作品を発信し続けている。