ハイレゾで広がる『マクロスΔ』の音世界 FlyingDog音楽プロデューサー 福田正夫 インタビュー

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FlyingDogの音楽プロデューサーとして、坂本真綾をはじめとする才気あふれるアーティストや、『ARIA』『たまゆら』『幸腹グラフィティ』『あまんちゅ!』などアニメ作品の魅力的な主題歌や劇伴をプロデュースしてきた福田正夫。満を持して『マクロス』シリーズに参加した彼は、一体、どのような発想をこのビッグ・プロジェクトに持ち込んだのだろうか?今回は『マクロスΔ』の世界を構築する音楽観について、またハイレゾについても語ってもらった。

Interview&Text By 前田 久

 

「マクロス」が今までやってこなかったことをやってみようかなと考えました

──今回、福田さんが「マクロス」の音楽を手がけるにあたって、どんなことを考えられたのでしょうか?

160831-MW-225101福田正夫 僕にとって今回の『マクロスΔ』が初めて担当する「マクロス」なんですが、関わることになってから最初に総監督の河森正治さんとお話ししたとき、とにかく後ろを振り返らない方だという強い印象を受けたんです。だから、『マクロス』というのは歴史のあるタイトルですが、それを一回ご破算にして、『マクロス』が今までやってこなかったことをやってみようかなと考えました。

そのうちのひとつが、複数の作曲家や作詞家の方にお願いして、いろいろなタイプの曲を作ることでした。それでは統一感がなくなるのでは?という心配もあったのですが、そこは自分が音楽プロデューサーとして舵取りをすることによって、統一感を出せるかな、と。ですので、いろいろな方が作った曲を集めても、「これって、『マクロスΔ』の音楽らしいね」と言われるような音楽になる自信はありました。

──その「『マクロスΔ』の音楽らしさ」というのは何でしょうか?

福田 いくつかキーワードがあります。まずは「温故知新」。また「耐久性」や「中毒性」、そして「歌謡曲」ですね。
まず「マクロス」というシリーズの音楽が今まで脈々とやってきたことを受け継ぎつつ、新しいものを作ること。「マクロス」というシリーズは30年以上続いてきましたし、これから先も30年、40年、いや、もっと長く愛され続ける可能性がある。だから、たとえば「愛・おぼえていますか」のように、発表から30年以上経っても、シリーズの長年のファンはもちろん、最新作で新しくファンになった人にも愛してもらえるような、時が経っても色あせない耐久性のある曲にする。さらに、何度聴いても飽きない、それどころか、聴けば聴くほど中毒になるような曲を目指そうと思いました。こんなところが、『Δ』で僕が音楽を作るうえで自分に課したお題でした。

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では、中毒性のある音楽とは何か?と考えていったとき、僕の中でそれは「歌謡曲」へと辿り着いたんです。J-POPという呼び名ができる前の、「歌謡曲」というカテゴリー、ジャンルで語られた音楽です。自分がその全盛期に育ってきたからかもしれませんが、歌謡曲のメロディや歌詞は、何十年経っても忘れないし、それに一部の世代だけじゃなくて、老若男女すべての人から愛される。それってまさに『マクロス』というシリーズの特徴だし、コテコテの歌謡曲って、逆に今、新鮮だと思うんですよね。「歌謡曲」=「ダサい」ということで、呼び方としてもジャンルとしても廃れていったんですけど、一周回った感がある。ならば、現代において歌謡曲は新しい音楽かな、と。

渋谷系の人たちって、歌謡曲オタクが多いんですよ

──福田さんといえば、坂本真綾さんや清浦夏実さんといった方々との、渋谷系とか、洗練された洋楽系サウンドの印象があるので、「歌謡曲」への思いを聞くのはちょっと意外です。

160831-MW-231801福田 そうですか?(笑)。でも渋谷系の人たちって、歌謡曲オタクが多いんですよ。筒美京平先生を神と仰いでいるような(笑)。そういう意味で、渋谷系と歌謡曲は自分の中ではそんなに離れているイメージはないんですよね。

──ちなみに、福田さんはどのような歌謡曲がお好きなんですか?

福田 うーん(笑)。そうですね、時代によってもいろいろありますし……いろいろとありすぎますね(笑)。今、ふと思い出したものだと、フィンガー5とか、素晴らしいと思いますね。当時は歌謡曲の作家にしろアーティストにしろ、洋楽に対する計り知れない憧れとリスペクトがあったんです。フィンガー5は、ジャクソン5に対する意識をすごく感じますし。「学園天国」なんて、本当によく出来た曲だと思いますね。

歌謡曲こそが今のアニソンとして新しい

──なるほど。いろいろとお伺いしたい部分ではありますが、話を戻します(笑)。今回、作曲家陣の中で最初に、コモリタミノルさんにお声をかけたとお聞きしました。

福田 僕がこの作品に参加した段階で、エースボーカル的な立場の子がふたりいる5人組の女子アイドルグループが歌うことと、彼女たちが歌うとバルキリーが踊り出すことだけ聞かされていました。最初は、ふたり以外の3人はもっと裏方的な役回りだったんですよ。

最終的にはキャラクターなどの設定も変わったし、ワルキューレのボーカルに決まった5人がものすごく熱意のあることに加えて、思っていた以上に皆さん歌が上手だったので、曲も大きく変わっていったんです。5人が同じく前に出てくるような曲もできたし、「ルンがピカッと光ったら」のように、シングルではサビの一部をユニゾンで録音したけれど、その後、レコーディングの状況を見ていたらいけそうだったので、そこを5声ハーモニーにしてアルバム・バージョンとして収録し直したり、などなど。ワルキューレの5人とはお互いに刺激しあったところがありましたね。

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ともあれ、もともとは中心となるボーカリストとバック・コーラスのグループという案だった。それってどんなグループなんだろう?と考えていて、思い出したのがFolderでした。三浦大知くんという中心的なボーカリストと、彼を支えるポジションのメンバー6人で編成されたアイドル・ユニットです。しかもFolderのような音楽性なら、バルキリーも踊りそうだな、と(笑)。それで、Folderの楽曲をすべて手がけていたコモリタ(ミノル)さんに声をかけたんです。

最初に美雲が歌う曲とフレイアが歌う曲をそれぞれ依頼したんですが、美雲の曲に関して伝えたイメージは中森明菜でした。「歌謡曲全盛期の中森明菜にコモリタさんが今、曲を作るとしたら、どんな曲を書くだろう?」と思いまして。ちなみに美雲が中森明菜というのは僕の勝手なイメージで、河森さんはそんな風に感じてはいないと思いますけれど(笑)。
ところが、いつのまにかにコモリタさんの中では、中森明菜プラス「アン・ルイスの『六本木心中』みたいな曲」というイメージになっていたみたいで(笑)。

──なんと!(笑)。

福田 そして、出来上がってきたのが「いけないボーダーライン」なんです。でも、僕の中で思い描いていた『Δ』の音楽イメージにまさしくぴったりで。今までの「マクロス」にはなかったサウンドであり、「歌謡曲こそが今のアニソンとして新しい」というコンセプトをまさに象徴するような曲だと思いました。だから世の中で最初に流れるワルキューレの曲にしたかったんです。

メロディラインの引きの強さは共通していました

──とても興味深いエピソードですね。では、ほかの作曲家の方たちについてもお聞かせください。

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福田 松本良喜さんは、作曲された中島美嘉さんの「雪の華」やRUI(柴咲コウ)さんの「月のしずく」を聴いたときに、「ついに平成の筒美京平が現れた!」と思いました。消えた歌謡曲という灯りをもう一回照らしてくれる人だ、と。それでお声がけしました。姉田ウ夢ヤさんは明るい曲が得意だと知っていたので、そんなイメージのあるフレイアの曲をお願いすることにしました。まずその3人で6曲を作ってもらって、河森さんと安田(賢司)監督に判断してもらうことにしました。僕としてはどの曲も素晴らしいと思っていましたが、おふたりのイメージに合っているかどうかはわかりませんからね。そうしたら、「曲調はどれもバラバラだけど、どの曲も良いので全部使いましょう」という話になりまして(笑)。

──(笑)。

福田 その6曲は、曲調は違うけれどメロディラインの引きの強さは共通していました。まさに歌謡曲というか、流行歌的な感覚があったんですね。そういう王道な路線を押さえていれば、なんでもありなんだな、と感じました(笑)。それで声をかける方の範囲を広げていって、あとはもう、その時々のお題によって人選をしていきました。

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たとえば「バトル・シーンに使える曲がほしい」「OPテーマはバトル曲として使えるものにしてほしい」というオーダーを受けてお願いしたのが、加藤裕介さん。加藤さんに「僕らの戦場」や「一度だけの恋なら」を書いてもらったことで、ますます歌謡曲路線に拍車がかかったな、と(笑)。そんな繰り返しでした。後半になると、TeddyLoidさんやラスマス・フェイバーさんのようなクラブ系の方たちから、北川勝利さんのようなアキシブ系なんて呼ばれているような方たちまで、いろいろな方面にお願いをしました。

──堂島孝平さんの起用はおどろきでした。

福田 堂島さんは昔から大好きなんです。僕の中で歌謡メロが作れる日本人作家は限られるんですが、堂島くんこそ、まさにそんな「歌謡曲の作家」のひとりなんですよ。

お互いの持ち味を活かした面白い音楽ができるんじゃないかと考えたんです

──たしかにメロディが印象に残る曲ばかりです。さて、今回は劇伴も複数の作曲家が参加していますね。FLD_3P_BOOK_fix_ol鈴木さえ子・TOMISIRO・窪田ミナ『TVアニメーション「マクロスΔ」オリジナルサウンドトラック1』 のレビューはこちら

福田 「マクロス」の劇伴は、ハネケン(羽田健太郎)さんから始まり、鷺巣詩郎さん、菅野よう子さん、はい(※)島邦明さん(※「はい」は草冠に酉と己)などなど、「天才」の括りにある劇伴作家の皆さんが手がけてきたものです。だからまずは、僕が知る中で「天才」と呼ぶのにふさわしい方のひとりである、鈴木さえ子さんにお願いをしました。TOMISIROのおふたりは、『輪廻のラグランジェ』などこれまでもさえ子さんが劇伴を手がけるときに共同作業をしているので、今回も是非一緒にやりましょう、とお願いしました。窪田ミナさんは、『マクロス』という作品には壮大なオーケストレーションが必要な場面があるので、依頼をしました。窪田ミナさんも、さえ子さんの持ち味とは違う、才能をお持ちの「天才」ですね。また窪田さんはさえ子さんたちともお知り合いですし。窪田さんの壮大なオケと、さえ子さんたちのちょっとユニークな音楽が組み合わされば、お互いの持ち味を活かした面白い音楽ができるんじゃないかと考えたんです。

──期せずして劇伴も歌ものもチーム制になりましたね。

福田 そうですね。僕の中でやはり『マクロス』は大きな作品だったので、総力戦になってしまいました(笑)。

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やっぱりアコースティックな音は臨場感が違いますね

──そんな『マクロスΔ』の音楽ですが、今回、ハイレゾ音源も配信されています。

福田 僕自身としては、ハイレゾで配信されるからといって特別な音作りをしようとは思っていません。ただ、僕らがレコーディングからミックスまで聴いてる音は48kHz/24bit以上のものですが、CDや通常の配信という形で流通させる際には、どうしてもそこからスペックをダウンさせなければならない。それはすごく残念だなと、ずっと思っていたんです。制作に関わった僕らですら、最後にミックスした音、いちばんいい音を、そのあとは聴くことができなかったのですから。そこにハイレゾというものが出来て、これまでは二度と聴くことができなかったあの時の音を聴くことができるようになり、リスナーたちにもその状態のまま音を届けることができるようになった。本当にいい時代になったなと思います。160831-MW-220101──福田さんがいちばん、ハイレゾならではの音の違いを感じるところはどこですか?

福田 やっぱりアコースティックな音は臨場感が違いますね。44.1kHz/16bitの音は、再生された音のイメージなんですよね。でも48kHz/24bit以上の音は、スタジオでレコーディングしていたときの感覚がよみがえるというか、「再生機から流れてる音じゃないな」という感じがします。

──『マクロスΔ』の中で、その感覚が味わえる曲を挙げるとするならばどの曲でしょうか?

福田 そうですね……ワルキューレの1stアルバム『Walküre Attack!』をCDで購入された方に、アルバム収録曲のハイレゾ音源を1曲プレゼントするキャンペーンをやったんです。その際に、エンジニアと話し合って選んだのは、「GIRAFFE BLUES」でした。バラードで、帯域的にも、また歌の倍音の成分など、いちばんハイレゾとCD音源との差を感じてもらいやすいかな、と。やはり歌声やストリングス、アコースティック・ギター、ピアノ……そういう生の音が、いちばん違う感じがしますね。

 

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