教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.1

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今さら人に聞きにくい、「ハイレゾって何?」という素朴な疑問。CD音源との違いから、ハイレゾを存分に楽しむために必要な機材の話まで、『ラブライブ!』など数多くの作品の音楽制作プロデューサーを務め、自らが手がけた作品のハイレゾ配信にも積極的な佐藤純之介氏に話を聞いた。

※教えて純之介さん! Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.2の記事はこちら

※教えて純之介さん! Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.3の記事はこちら

Interview By 田中尚道(クリエンタ)
Text By 青木佑磨(クリエンタ/学園祭学園)
At Lantis Magic Garden Studio 3st

 

Q. ハイレゾってCDと何が違うんですか?
A. ハイレゾは、レコーディングされた音をそのまま届けられるフォーマットです!

──先日、ハイレゾ対応の再生機器とヘッドホンを手に入れたので、早速μ’sの「Snow halation」の通常版とハイレゾ版をダウンロードして聴き比べてみました。……が、正直あまり違いがわかりませんでした(笑)。まずはCD音源とハイレゾ音源の違いは何なのか、という所からお聞かせください。

佐藤純之介 まず大前提として、CD音源とハイレゾ音源のどちらもが良いものになるように作っています。CDにはCDの、ハイレゾにはハイレゾの視聴環境があって、それぞれに良く鳴らすためのテクニックが存在するんです。だから、どちらが良い悪いというような差別はありません。ただレコーディング時には元々、フォーマットとして「96kHz」や「192kHz」といった周波数のハイレゾで収録されていて、CDに収録する際に44.1kHzに圧縮されるんです。だから、録った時の音をそのままユーザーに届けられたら喜んで貰えるんじゃないか、という所からハイレゾの配信を始めました。

※kHz 1秒間に物質が何回振動するかの単位。1kHzは1秒間に1000回振動しているということ。理科の実験などでご存知の方もいるかと思うが、音の場合、この振動数が多くなることで人間はより高い音であると認識する。

──ハイレゾ配信を始めたいと思ったのは、いつ頃のタイミングだったのでしょうか?

佐藤 一番初めに思ったのは、もう7~8年前ですね。当時の上司に「君にそのような仕事は望んでいない」と言われてしまい、頓挫してしまいました(笑)。そこから時代が巡って2年程前に、オーディオ系ライターの野村ケンジさんと出会ったんです。それをきっかけにオーディオメーカーさんともお付き合いが始まって、その中で「ハイレゾを望んでいる声がある」ということがはっきりとわかりました。それで改めて会社を説得して、ハイレゾ配信を始めたのが2014年10月。その最初が『ラブライブ!』という流れですね。

──ハイレゾ配信に興味を持った7~8年前には、何かきっかけがあったのですか?

佐藤 96kHzのレコーディングは2006年頃からやっていました。96kHzで録音したものと従来通り48kHzで録音したものをCDにした時に、最終的には同じ44.1kHzに圧縮されるのに不思議なことに96kHzの方が音が良かったんですね。ですのでやはり録る時には考え得る限り良い音で録っておいて、アウトプットに合わせて音作りをしていこうと。そうして7~8年前に、僕の中でメソッドができあがった感じです。

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Q. ハイレゾとCD音源の差を実感するには?
A. 沢山聴いたお気に入りの曲で聴き比べてみましょう!

──「CDでは圧縮されていたものが、ハイレゾではそのままの音質に」という売り文句はよく目にしますが、耳で聴いたときに変化が分かりやすいポイントはあるのでしょうか?

佐藤 「違いがわからなかった」とお話しされていましたが、僕もそれは理解できる部分があるんですよ。ハイレゾ配信を始めて一番驚いたのが、「そこまで聴いてたの!?」というユーザーが多かったことなんです。作る側のこだわりとして、ボーカルが複数人いるなら「この人の声は右に何mmかだけ寄せておこう」とか、ほんのちょっとズラしたりしていたんですね。そうすることで声が混ざらずに、同じメロディを歌っていながらも個性が消えずに残るようにしていたんです。ハイレゾではそれをちゃんと聴き分けている人がいて、本当にすごいと思ったんですよ。

──CDでは届ききらなかった部分にも、ハイレゾでは気付く人が出てきたと。

佐藤 なので「違いがわかる、わからない」ということには、実は「ひとつひとつの曲に対する思い入れ」が影響しているのではないかと思うんです。聴き比べて薄いか厚いかくらいの変化はあったとしても、その音楽に対する思い入れがないと大きな差は感じられないんですね。『ラブライブ!』を始めとしたランティスのハイレゾが受け入れられた背景には、元々CDで大事に大事に聴いてくれていたユーザーがいてくれたことが大きくあると思います。

──CD音源の状態が耳に馴染んでいるからこそ、変化に敏感になるんですね。

佐藤 そうです。僕は今までユーザーの皆さんに対して、CD音源やそのマスター、マスタリングし直したものなど、バージョン違いを何パターンも提供してきたんです。パターンを沢山作って儲けようという話ではなくて、ニーズが高まると同時に、ユーザーが些細な違いに気付いてくれることがどんどん嬉しくなってきてしまって。新しいマスタリング方法を考えたり、些細なことの積み重ねを続けて行く中で「今までよりあそこの歌の表現が見えるようになって良くなった」という意見もいただいたり、ユーザーも一緒に成長してくれたんですよ。そういった意識が変わった人たちに対して、恥ずかしくないものを提供していこうという思いがあったので、CDとともにハイレゾも大事にする形になりました。

──ユーザー側が愛情を持ってくれたからこそ、作り手もハイレゾに力を入れることができた訳ですね。

佐藤 そうですね。CD音源やMP3配信では、「iPhoneのイヤホンでチェックして大丈夫ならOK」という風潮があるんですよ。J-POPだと「渋谷の街鳴りで歌がちゃんと聴こえている」とか、それぞれに指針があるんです。それが正義だと教えられてきたんですけど、アニメ・ユーザーのリスニングに対する姿勢は、すごくこだわって、すごく愛してくれて、大事にしてくれて……そうやって細部まで全部聴いていてくれていたんです。

──確かに「Snow halation」を聴いたときは、自分はそこまでではありませんでした(笑)。

佐藤 そこが本当にポイントだと思うんですよ! なんでもかんでもA/Bテストをすればいいという訳ではなくて、すごく大好きな曲のCD版とハイレゾ版を聴き比べたら差が絶対にわかるはずです。やっぱり音楽なので心の問題、気持ちの問題、というのはあるとは思いますし、そこを否定するつもりは全然ないですよ。

※A/Bテスト AとBを比較することでどちらが良いか判断するテスト。

──ヘビーローテーションでずっと聴いていたものほど、自分の中に染み込んでいるから差がわかりやすいということですね。

佐藤 そうですね。「ハイレゾ音源です」と言われて聴かされて、それが本当にハイレゾかどうかなんて僕にもわからないです。比較と、それに対する思い入れという部分が大きいと思います。

Q. 音楽を聴くならCDでも充分じゃないですか?
A. CDもまだまだ充分なフォーマットです。でも、10年後の未来のためにハイレゾを作っています。

──「ハイレゾを聴いて違いが分からない」ということは、「CDって意外とよくできていたんだな」という感想も持ちました。

佐藤 そうですね。それは本当に、ここ5年程のマスタリング技術の向上が大きいと思います。CDってまだまだ音良いな、まだまだフォーマットとして充分だなと思う部分がありますね。CDが出たばかりのマスタリングは、正直良くないものも多かったです。それはテクニックや哲学の問題ではなく、技術的にクオリティが下がってしまうということです。腕やノウハウで乗り越えて良いものを作る人たちもいらっしゃいましたが、やっぱり高いクオリティに至るだけのテクノロジーが追い付いていなかった。昨今パソコンの中でマスタリングするようになったり、コンバーターの質が上がったりしたことで、CD自体の音質も良くなっています。まだまだCDで充分な中でハイレゾユーザーは全体の2%程度なので、その2%のためだけに心血を注いでいるのって、この業界で僕だけなのかもしれませんね(笑)。

──そこまでハイレゾの普及に尽力するのには、何か理由があるのでしょうか?

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佐藤 ニッチな業界ですが、僕はそのニッチな所に未来を感じているんです。今そういうクオリティを意識して作っておけば、10年後、20年後にまた評価してもらえる日が来るのかもしれません。例えばもっとマスタリングの技術が上がったときに、今聴いてもらっているものより更に良い表現ができるかもしれません。なので、元々の音源自体を高いクオリティで録っておこうという意識はあります。90年代のDATがマスターだった時代には、DATのフォーマットである16bit/48kHzでレコーディングされていたり、また迫力を演出するために過剰な音圧処理を行なう、所謂「音圧戦争」の時代へと突入してしまい、マスターの質自体が悪いものが多かったんですよ。今はリマスターもブームになっていますけど、元の音が潰れてしまっているものをハイレゾでリマスタリングしても良い音質にはなりにくいですよね。「音が潰れていることが格好良い」という時代もあったので、それを「悪いもの」として否定をするつもりはありません。でも今のニーズである「広い音像」「ダイナミックレンジが広くて綺麗」というものは、そこからは作り辛いという現状です。だから10年後、20年後のために、という気持ちで今のハイレゾを作っています。

※ダイナミックレンジ 発信されている信号の最小値と最大値の比率。アナログはdB(デシベル)、デジタルはbit(ビット)で表わされる。この数値が大きいほど細かく分解されているため、密度が増しているように感じる。端的に言うと情報量が多いということ。

Q. ハイレゾは「上下の帯域がCDより広い」とよく耳にしますが、それが一番の特性なんですか?
A. 実はハイレゾの一番の特性は、帯域の広さよりダイナミックレンジの広さなんです!

──ハイレゾはCDと比べて、「これまで上下の帯域を切られていたものが、切られずに広がったもの」というイメージがあります。最近、歳でモスキート音が聴こえなくなってきまして(笑)、そういう人には違いがわからないんじゃないかと思うのですがどうなのでしょうか。

佐藤 すごく大きな誤解がありますね。確かにハイレゾを説明されるときには、「今までは何kHz以上の帯域は切られていて」と最初に言われると思います。そこも「耳で聴きとれない帯域で印象をコントロールできる」という大事な要素なんですが、実は一番の恩恵は別にあるんです。ハイレゾで一番おいしくなるのは先程も言った通り「解像度」、そして「ダイナミックレンジの広さ」なんですよ。

──最も弱い音から最も強い音までの範囲をdBで表したのが、ダイナミックレンジですね。

佐藤 そうです。小さい音から大きい音に移行していくときのグラデーションが、解像度が上がることで細かくなっているんですよ。実は人間が「良い音か悪い音か」を判断するとき、そのグラデーションが強く印象を左右するんです。f特と呼ばれる周波数特性も大事なんですけど、一番大事なのはダイナミックレンジの表現です。音が小さい所から大きい所に移行するその差に、人間は感動するんですよ。

──確かに静かな所から音が盛り上がっていくときに、鳥肌が立ったりすることはありますね。

佐藤 もっと細かくいうと「アクセント」。抑揚は音楽が持っている一番の感動ポイントだと思います。解像度が高いとグルーヴを感じやすくなるんですよ。楽しいリズムを、より楽しく感じ取れるようになる。それは意識せずとも本能的にです。そこがハイレゾによって表現力が膨らんでいる一番の部分です。「歌が聴きとりやすくなる」とか「ノれる」とか、「スピード感をCDより感じる」という大事な部分に繋がるので、それを感じ取れることが一番大事だと僕は思っています。

160921-mw-184001──具体的に「ダイナミックレンジが広い」とはどういうことなのでしょうか?

佐藤 宣伝ながらに言いますと、ランティスでは『ラブライブ!』などの32bitのマスタリングシリーズを出しています。これは元のマスターは24bitなんですけど、マスタリングのコンプレッサーやイコライザーで拡張しているんですね。CDが16bitというのは、ダイナミックレンジで数値化すると96dBなんです。つまり全くの無音から、ちょっと大きな音のコンサートホールくらいのダイナミックレンジがCDには収まるんですね。対して24bitは144dB。無音から鼓膜が破れるような爆音までの幅です。そして32bitのマスタリングシリーズは、192dBまで表現できるんです。人間が認識できるダイナミックレンジの限界が28bit相当らしいので、現状、人間の耳を超えたダイナミックレンジを表現できているということです。それを再生する機械はあまりなかったんですけど、ちょうどAstell&Kernさんから対応した唯一のポータブル機が発売されたので、タイミングを合わせて32bitシリーズを作りました。「何kHz以上が入ってる、入ってない」というのは、入ってるに越したことはないんですが、そこが一番大事なことではないんです。ダイナミックレンジがいかに広く収められているか、作品として表現されているかがハイレゾと普通の音源の最大の違いであると思います。

──高周波帯域の話を聞いて、「年寄りはハイレゾの恩恵を諦めなければならないのか」と思っていたのでありがたいです(笑)。

佐藤 高周波はあれば良いけどなくても良いし、それはハイレゾの本質ではないということですね。

──音の密度を楽しむためという方向にユーザーの視聴環境の変化が起きるかもしれませんね。

佐藤 今までは「ラジカセからiPhoneまで」を指針に作っていたのを、積極的にターゲットを「iPhoneからハイエンドオーディオまで」に広げたということが、ランティスのハイレゾが打ち出した方向性です。僕はハイレゾ版に関しては、「よりハイエンドな環境を持っていればいるほど、良さやこだわりが伝わる」という部分にポイントを置いて音を作っているんです。滅茶苦茶にハードルが高い音源を作っているつもりなんですよ。2~3万円のハイレゾプレーヤーから始めた人でも、例えば10万円のプレーヤーを買って同じ音源を聴いたときに「すごい!」と気付いてもらえるように。

──より良い機材を買ったときに、必ず以前の環境より感動が増すということですね。

佐藤 ハイレゾ配信を始めた頃に、自分が作った音源を持ってオーディオマニアの人の家に行きまくってたんですよ。そこでこだわりやノウハウを教えてもらいながら……「リモコンの蓋を外した方が音が良くなる」とか、そういう話もありましたが(笑)。そういった話を真面目にも話し半分にも聞きつつ、「オーディオマニアが聴きたくなるポイント」「ハイレゾマニアがおいしいと思うポイント」を研究しました。何千万円かけて揃えたオーディオでも、そうでないプレーヤーでも、どちらでも良く聴こえるようにというのは意識して作っています。
Vol.2に続く)

※教えて純之介さん! Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.2こちら

「アニソンに適した再生環境ってどんなもの?」「ハイレゾの良さを理解するには、どんな楽曲を聴けばいいんですか?」など、アニソン・リスナーが気になる質問を佐藤氏に聞きました。オーディオの観点からアニソンの特徴が浮かび上がってくる興味深い話が満載です。

 

160921-mw-192001佐藤純之介
1975年大阪生まれ。YMOに憧れ90年代後期よりテレビや演劇の音楽制作の仕事を始める。2001年に上京し、レコーディング・エンジニアとしてJ-POPの制作に参加する。2006年、株式会社ランティスに入社。現在は音楽制作部のチーフ・プロデューサーを務める。『ひだまりスケッチ』『ラブライブ!』『ウィッチクラフトワークス』『トリニティセブン』『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』『おそ松さん』『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』『紅殻のパンドラ』『ラブライブ!サンシャイン!!』『フリップフラッパーズ』などTVアニメの音楽やμ’sChouChofhána、寺島拓篤、marbleTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDなどのアーティスト作品にプロデューサーやディレクター、エンジニアとして携わっている。

佐藤純之介氏が携わった作品のレビューはこちら

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