教えて純之介さん!Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.2

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今さら人に聞きにくい、「ハイレゾって何?」という素朴な疑問。CD音源との違いから、ハイレゾを存分に楽しむために必要な機材の話まで、『ラブライブ!』など数多くの作品の音楽制作プロデューサーを務め、自らが手がけた作品のハイレゾ配信にも積極的な佐藤純之介氏に話を聞いた。
Vol.2となる今回は「アニソンに適した再生環境ってどんなもの?」「ハイレゾの良さを理解するには、どんな楽曲を聴けばいいんですか?」など、アニソン・リスナーが気になる質問を佐藤氏に聞いてみた。

※教えて純之介さん! Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.1の記事はこちら

※教えて純之介さん! Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.3の記事はこちら

Interview By 田中尚道(クリエンタ)
Text By 青木佑磨(クリエンタ/学園祭学園)
At Lantis Magic Garden Studio 3st

 

Q. アニソンに適した再生環境ってどんなもの?
A. ズバリ、イヤホンです!

──たしかに「アニソン」というジャンルで考えてみるとオーディオ好きも多いのかもしれませんね。

佐藤 「アニソン」はもはや現象の名前であって、カテゴリ名ではなくなったと僕は思っています。ジャンルに固執せず、良いものを作って色んな人に認めてもらえる、というのが理想形ではありますね。

──仕事柄「アニソンってどんなジャンルなの?」とよく聞かれるんですが、ジャンルは「なんでも」としか答えられないんですよね。

佐藤 そうですね。「なんでも」だからアニソンなんですよね。僕は昔、J-POPの現場でエンジニアの仕事をしていて、そこからランティスに入って感激したことがあるんです。僕が入社したその月に『涼宮ハルヒの憂鬱』が始まったんですけど、学園モノがあったり『アンジェリーク』のような中世ヨーロッパのロマンチシズムがあったり、ロボットが戦うものがあったり……様々なジャンルの作品に対して、もちろんその時々で作る音楽のジャンルも違う訳ですよ。でも作っているスタッフはみんな一緒なんです! なんて幸せな会社なんだろうと思いましたね。それまでは毎日、恋愛の歌ばっかり作っていたので(笑)。アニメに紐付けば「なんでも」ですし、アニメってそもそもジャンルレスじゃないですか。全ての世界観がアニメの中には存在しているので。

──そういう意味では幅の広いオーディオ環境があった方が、アニメに紐付いた音楽を楽しみやすいのかもしれませんね。

佐藤 ジャズやクラシックからEDMまで、全てを音楽家として我々は統括しなくてはならないので、それらのそれぞれのアウトプットを持っている人に、どこに出しても恥ずかしくないものを作る、というのはひとつの目標ですね。

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──アニソンを聴いていたら自然と耳が肥えますよね。やらないジャンルはまずないという程、なんでもやっている印象です。

佐藤 そのジャンルの数だけ、適したオーディオ環境も存在しているので……(笑)。僕が一番衝撃を受けたのが、数千万円のオーディオセットで自分が担当したアーティストのハイレゾ音源を聴いたときに、なんだか音が変だったんです。オーディオのオーナーさんは「素晴らしいですね」と言ってくれるんですけど、明らかに何かがおかしかったんですよ。実はその原因は、ジャズやクラシックが最高級に聴こえるスピーカーとアニソンとの相性の問題だったんです。

──高い機材だからといって、どんな音楽も良く聴こえる訳ではないんですね。

佐藤 ジャズやクラシックはBPMが遅いんですよ。つまり広がりは重視されるけど、キレの良さは重視されていない。高音から低音までの音の出るスピードは、ジャズやクラシックにおいては高音になればなる程遅くなるんですね。1/1000秒単位なんですけど、帯域ごとの音が出てから耳に届くまでのスピードは違うんです。ジャズやクラシックはBPMがゆっくりなので、スピードの違いが広がりとなって耳に届く。そうすると、空間ごと包まれたようなリアルな良い音ができあがる訳です。対してアニソンは、低域から高域まで全部が同じスピードで出てしまうんですね。だから最新のスピーカーやバランスを重視したスタジオ用のスピーカーでしか、あの「アニソン感」は再現できないんです。でも、それら以外でもうひとつだけ「アニソン感」を完璧に再現できる方法があるんですよ。それがイヤホンだったんです。

※BPM Beats Per Minute 1分間に何拍するかという単位。ビート=拍となり、60BPMなら1分間に60拍となる。この数値が多くなるとリズムが速いと感じる。

──なるほど! 確かにスピーカーと違って耳までの距離が近いですしね。

佐藤 そうなんです。イヤホンがアニソンユーザーの中で盛り上がっていると聞いたときに、最初は「なんでだろう」と思っていたんです。でも、確かにイヤホンで聴いた方がアニソンのリアルさや、アニソンに込められたものがわかるんですよ。アニソンのBPMが何故速くなったのかというと、映像の展開を速くするためだったと思うんです。絵を綺麗に、かつ格好良くダイナミックに見せるために作った音楽には、70~80年代やそれ以前に作られた大きいスピーカーは向いていなかったんですね。最適化されているのが実はイヤホンだったと発見して、じゃあイヤホンで完璧な音源を作っておけば、ある程度の環境で綺麗に鳴らすことができるなと。そこでリスニングユーザーのターゲットを、僕の中で絞ることができました。

Q. プレーヤーやイヤホンはどうやって選べばいいんですか?
A. 好きな音源をお店に持ち込んで試聴してみましょう!

──オーディオルームを作る程の人は、ジャズやクラシックをメインに聴く方が多いですよね。

佐藤 もしアニソンユーザーがオーディオルームを作るなら、スタジオ用のスピーカーを使ってほしいですね。それが一番意図が正しく聴こえるし、僕らは「楽しく聴こえているか」ということをシビアに判断しています。その観点から言うと、スタジオ用のモニタースピーカーと呼ばれるものや、イヤホン、ヘッドフォンをオススメします。

──プレーヤーも高価なもの方が良いのでしょうか。

佐藤 そうですね……まあ安いものより高いものの方が良い、というのは当然あります。とはいえ最近はどれも良くなってきているので、大事なのは好みです。色々なプレーヤーを聴き比べて選んでみてほしいですね。「高ければ良い」という訳ではないのがオーディオの面白い所なので。

──「安くても名機」というものも昔からありますからね。

佐藤 ありますあります。例えば最新機種を買わずに、一世代前のハイレゾ機を買って安く抑えることもできます。ユーザーさんには「自分が思い入れのある曲のデータを持ち歩いて試聴する」という方法を実践してみてほしいですね。それぞれに絶対に好みの音というものがあると思うので。

──「違いが知りたければ、まず聴き比べてみよう」ということですね。

佐藤 最近は家電量販店でも、自分の音源を持ち込んでイヤホンを試せますからね。

──最初は手に入れたハイレゾ再生機器に付属していたイヤホンを使っていたのですが、別のものに変えてみると全く音が変わりますよね。これは踏み込んでしまったら、ものすごい沼なのではないかと(笑)。

佐藤 沼ですよお~(笑)。

──今回のインタビューは、沼に踏み込まずに手っ取り早く最短ルートを教えてもらおうという横着な企画でもあります(笑)。

佐藤 なるほど(笑)。

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──まずは、アニソンを聴くなら「なるべく耳に近い再生環境」というのが理想ですかね。

佐藤 聴くのがアニソンで、なるべくコストも抑えて、という条件ならイヤホンが一番おいしい所や格好良い所、綺麗な所が伝わりやすいと思います。

──スピーカーから出すのであれば、スタジオ用のものが良いということですね。

佐藤 「これから新しいスピーカーを買うにあたって、どんなものが良いですか」と聞かれたら、スタジオ向けやDTM向けとされているモニタースピーカーがオススメですね。オーディオ用の家電製品のスピーカーというよりかは、スタジオ用のリファレンススピーカーの方が手っ取り早く我々が意図する「スタジオで鳴っている音」に近いものが出るのかなと思います。

──純之介さんが仕事場で聴いている環境と近ければ、少なくとも正しくはあると。

佐藤 逆に100万円出してでっかいオーディオスピーカーを買ってもハズすことはあるよ、と(笑)。高けりゃ良いもんでもないというのはそういうことですね。

──そう言っていただけると初心者は気が楽ですね。「ハイレゾを楽しみたいなら、100万円のスピーカーを買え」という回答ではなくて良かったです(笑)。

Q. ハイレゾの良さを理解するには、どんな楽曲を聴けばいいんですか?
A. 好きなアニメ作品のサウンドトラックがオススメです。

──「差がすぐにわかる程に聴き込んだ曲」を持たない人が、手っ取り早くハイレゾの良さを理解するにはどういった楽曲を聴くのが適しているのでしょうか?

佐藤 音の良さを感じやすいのは、生楽器を使っている楽曲ですね。生楽器には豊かな表現力があるので、その分届きやすくなると思います。なのでまず、アニメのサウンドトラックを聴きましょう。ランティスに限らず、各社サウンドトラックにはすごく力を入れています。作曲家やプロデューサーやディレクターの、こだわりや腕の見せ所でもありますからね。好きな作品のサウンドトラックで、耳馴染んだメインテーマを聴いてもらいたいです。

──テレビで聴くBGMとの差はかなり大きいのでしょうか。

佐藤 例えば、TVで鳴っている音源は圧縮された16bit/48kHzなんですよ。それがテレビ付属の小さなスピーカーから出ている。そこからハイレゾ音源で24bit/96kHzに変わって、イヤホンという耳に近い所で出力できる環境で聴く、という聴き比べになりますね。好きなアニメなら「あのシーンが思い出される」という思い入れもあると思うので、第一歩の「音の違いってあるの?」という疑問を解決するにはハイレゾのサウンドトラックがオススメです。

──確かにボーカルが乗っていると、そちらに耳が行きがちですしね。

161005-mw-231001佐藤 とはいえボーカルも、ハイレゾになって良いなと思ったことがありますよ。違いが分かりやすいのは、『ラブライブ!』のような人数の多いものですね。「CDでは持ってたけど、ハイレゾ版も買ってみるか」と思ったときには、例えばKalafinaさんのような複数人数の歌モノを聴いてみてもらいたいです。CDの解像度と手に入りやすいイヤホンの組み合わせだと、歌が同じメロディをユニゾンしていたら塊の歌として聴こえるんですよ。でもこだわって作られたハイレゾ音源ではただ塊ではなく、ひとりずつの個性がちゃんと別れた上での塊になっているんです。なので僕は、μ’sで「真姫ちゃんの声が右斜め上にある」という所までわかるような繊細さで作っています。「意識すればそれぞれの声を聴き分けることができる」というのが、ハイレゾの良い所ですね。「9人がユニゾンで歌っていても、その内のひとりの歌だけを耳で追いかけられる」のは、ハイレゾの解像度が高くて滲んでいないからです。そういう聴き比べをしていただくと、手っ取り早く違いがわかると思います。

──つまり、「愛があればわかる」と。

佐藤 そうそう、「キャラが誰」「声優さんが誰」とか。本当に、思い入れによる部分はすごく大きいと思います。

──「真姫ちゃんの声だけを追えるんだよ!」と言われたら、ファンは買わざるを得ないじゃないですか(笑)。

佐藤 是非買ってください(笑)。作っている人間ですから9人ずつそれぞれに思い入れはあるので、丁寧に作った結果、ユーザーに喜んでいただけたという手応えは感じています。

Q. ハイレゾを聴くにあたって、どんな機材を買えばいいんですか?
A. プレーヤーは安くても、イヤホンは良いものを!

──「これを買え!」とは言いにくいとは思いますが、初心者に推奨される再生環境はありますか?

佐藤 難しいですね……手軽にですよね。どこそこのメーカーの、と言ってしまうとそれはそれで問題がありますし……。お安く抑えると言っても、やっぱり再生機器とイヤホン合わせて10万円くらいはかけてほしいなあ~! 理想を言えば(笑)。でもiPhoneに接続するタイプのコンバーターもありますし、聴く方法はいくらでもあるんですよ。だから良い音を体験したい時に、順番として一番初めに手を出してほしいのはイヤホンですね。その次にプレーヤーだと思います。

──自分の気に入ったイヤホンを手に入れて、その上で本体を買い替えていくようになるんですかね。

161005-mw-233001佐藤 そうですね。それが自分の中での基準になるので、「前より良い」が体験できるようになるというのはあります。本当にこの沼というのは……もう間違いなく沼なんでけど(笑)。沼のすごさとして、「経験が塗り替えられていくことによる快感」があると思うんです。そして元に戻れない。一度良いものを体験すると、もっと上が知りたくなる。なのでいきなり100万円から始めると、実はあんまり面白くないんですよね。それはゴールじゃないんです。1万円のイヤホンから始まって、3万円になって、もっと良いものをと思うと「カスタムって何!?」「自分の耳型取れるの!?」となって10万円……と、段階を追って音の違いを体感することでオーディオファンになるんです。「音の良さ」というより、「自分がいかにこっちの音の方が好きか」ということを分かっていくんですよ。それが快感になるんです。なので「いきなり高いものを買う」は、僕はあまりオススメできないですね。最初から「20万円で良いものを買うんです」という人には、「ちょっと待った方が……」と言うと思います(笑)。「ひとまず一番安いプレーヤーとちょっと良いイヤホンで、10万円くらいから始めてみない?」という感じですね。

──安価なものから始めていくと、トータルではお金がかかるかもしれませんね(笑)。

佐藤 はい、最後に一番お金がかかるパターンです(笑)。でもやっぱり良い音で音楽を聴くことの楽しさに気付いたら、大袈裟かもしれませんが日々人生が楽しいと思うんです。僕は色んな良い音が聴けると楽しいし、幸せな気分になれます。それがまた新しいものを作らなきゃという糧にもなっているので、理屈じゃなくてまずは体感してほしいですね。体感さえすれば良さが分かるし、良さが分かればCDの良い所も悪い所もわかってきます。そうやって音楽を好きになってもらえれば。ハイレゾの普及がゴールではなくて、それをきっかけに音楽が好きなユーザーが増えてくれるのが最終的な目標ですよね。
Vol.3に続く)

※教えて純之介さん! Lantis音楽プロデューサー佐藤純之介がズバリ回答!!「ハイレゾQ&A」Vol.3こちら

ハイレゾについての様々な試みや音楽と映像の関係など、さらに一歩踏み込んだ話が盛りだくさんです。

160921-mw-192001佐藤純之介
1975年大阪生まれ。YMOに憧れ90年代後期よりテレビや演劇の音楽制作の仕事を始める。2001年に上京し、レコーディング・エンジニアとしてJ-POPの制作に参加する。2006年、株式会社ランティスに入社。現在は音楽制作部のチーフ・プロデューサーを務める。『ひだまりスケッチ』『ラブライブ!』『ウィッチクラフトワークス』『トリニティセブン』『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』『おそ松さん』『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』『紅殻のパンドラ』『ラブライブ!サンシャイン!!』『フリップフラッパーズ』などTVアニメの音楽やμ’sChouChofhána、寺島拓篤、marbleTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDなどのアーティスト作品にプロデューサーやディレクター、エンジニアとして携わっている。

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