悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.2 作詞家・藤林聖子 インタビュー

lis_lisreso_yuki_aoi_01_sy前作『イシュメル』から引き続き、『トコワカノクニ』でもすべての作詞を手がけている作詞家の藤林聖子。悠木 碧が思い描くイメージを彼女から引き出し、言葉へと写し取る、極めて重要な役割を担っている。デビュー・ミニ・アルバム『プティパ』から悠木 碧の作品に参加をしている藤林聖子だが、“声のみでつくりあげる”今作では、どのようにして作詞を行なったのだろうか?

悠木 碧『トコワカノクニ』インタビュー Vol.2では、作詞家・藤林聖子に悠木 碧とのディスカッションについて、イマジネーションを呼び起こす様々な歌詞について、また悠木 碧が絶賛する作詞のポイントについて、深く話を聞いている。

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Interview & Text By 高橋 敦
At FlyingDog

プリント

■01|私の中で絵として浮かぶまで碧ちゃんを質問攻めにします(笑)

──まず制作に参加するにあたって“声のみでつくりあげる”作品とお聞きになられたときにはどのように思われましたか?

藤林聖子 シンプルに驚きました。声だけの楽曲となると普通のレコーディングより遥かに時間がかかるだろうと予想出来るので、碧ちゃんのアーティストとしての心意気みたいなものに胸を打たれました。

──悠木さんが思う描くキャラクターやストーリー、世界観のイメージを膨らませ、具体的な形にしていくという、悠木さんとのディスカッションから藤林さんの作業が始まるとお聞きしています。前作『イシュメル』と声のみでつくりあげる今作とでは、話し合う内容、あるいは方向性といったものは、違うものだったのでしょうか?

藤林 やはり、楽曲のアレンジというか曲のテイストからイマジネーションの種をいただけたのが前作までとしたら、今回は0から起草しないといけない訳で、碧ちゃんのイメージの断片と、私の中の蓄積というかビザールな根みたいなものをつなげていく打ち合わせだった気がします。

──ディスカッションの場ではイメージ共有のために、悠木さんはそのキャラクター「キメラ」を言葉だけでなくイラストでも表現したとお聞きしました。それをご覧になられたとき、どのようにお感じになられましたか?

藤林 キモチワルイと思いました。まさかこんなに可愛くないとはと(笑)。同時に碧ちゃんとの作業特有のぞわぞわ感というかキタコレ感を覚えてうれしかったです。

VTCL-60299デビュー・ミニ・アルバム『プティパ』(2012.03.28)

──このディスカッションについて悠木さんがうれしそうに話してくれたことのひとつは、藤林さんはこのときには「この子は休みの日は何をしてるの?」のように、歌詞をどうするかではなく、まずキャラクターの話として掘り下げてくれるということでした。歌詞にはキャラクターのこのような設定が直接現れてくることはありませんでしたが、藤林さんにとってキャラクターのイメージを細かく積み重ねていくことは、歌詞を作る上で欠かせないことなのでしょうか?

藤林 特に碧ちゃんとの作業はシナリオに近いんじゃないかと思います。ちゃんと登場人物の個性を明確にして、歌詞中で動かしていかなきゃいけないので、最初の段階でイメージのすり合わせは私の中で絵として浮かぶまで碧ちゃんを質問攻めにします(笑)。

──悠木さんからお話をお聞きして、全体を通して、そしてそれぞれの曲に、お二人の中には明確なストーリーがあるのだとわかりました。ですが歌詞としては、そのストーリーのすべてを具体的に語り上げはせず、ストーリーの場面場面をあえて抽象的な表現でイメージとして伝えている曲が多い気がします。この意図はどのようなものでしょうか?

藤林 碧ちゃんがまず伝えたいのはストーリーではなく感覚なんじゃないか、と思うんですね。実際打ち合わせをさせていただいていても、曲のイメージが手触りや何かしらの違和感とか、そういうイメージが最初に来て、「例えば、」とストーリーが後から続いて出てくる感じなんです。そういえば初期の頃イメージとして劇団イヌカレーさんの作品を参考に見せていただいたかと記憶してるのですが、その時私の中のものとしてはヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クエイ、あとミシェル・ゴンドリーのコラージュ感と結びついて、ずっと続いているんです。だから説明的ではなく印象のコラージュみたいに、後味で残る歌詞にしたいと思ってしまうのかもしれません。

50-0065_2A_001@36_o_4P1stフルアルバム『イシュメル』(2015.02.11

■02|何かしらの“絵”を表現していくのが碧ちゃんの作品には似合う気がしてます

──ではその歌詞についてお伺いします。「サンクチュアリ」の歌詞では、木の枝に沢山の蝶が鈴なりに群がった光景が目の前に鮮やかに広がります。「鍵穴ラボ」や『イシュメル』に収録されている数々の曲もそうですが、歌詞の中に“見る”や“覗く”といった行為が度々現れてきているように思えますが、この点はいかがですか?

藤林 『イシュメル』の時には特に“見る” “見られる”恐怖というテーマがはっきりあったように思いますが、今作に関しては感覚を起因させる景色や状態を多く表現するためにどうしても出てきてしまうって感じですかね?いずれにしても何かしらの“絵”を表現していくのが碧ちゃんの作品には似合う気がしてます。

──また「サンクチュアリ」の終盤では“5グラムの羽音”という歌詞が出てきます。モナルカ蝶の単体の重さは1グラムにも満たないそうですが、ここでの“5グラムの羽音”で表わしたものは何でしょうか?

藤林 実際は0.5gとネットか何かで見たのですが、0.5gはメロディーにも乗りにくいし、なんだか美しくないなぁと思い、映画の『21グラム』を思い出して、人の魂の重さが21gという説があるとしたら、モナルカ蝶の魂は5gってことでどうだろう?と勝手にこじつけて使いました。

通常ジャケット

『トコワカノクニ』通常盤ジャケット

──さて「鍵穴ラボ」では、そこにあるものやキャラクターの動作などのひとつひとつを言葉で丁寧に追っています。抽象的なイメージが積み重なって景色が見えてくるような他の曲に対して、「鍵穴ラボ」の歌詞は描き出すものが明確で鮮烈です。「鍵穴ラボ」のイメージを作るとき、またそれを歌詞に表わすとき、どのようにお考えになられたのでしょうか?

藤林 「鍵穴ラボ」の主人公のイメージは碧ちゃんから“何か研究している人か、博士みたいな女の子”と最初から明確にありました。その子の目線で歌詞を作るときっと普通の人では難解というかキテレツ過ぎて歌詞にならないと思ったので、視点を移しました。鍵穴から見える突き当たりの壁には難しい本がびっしり並べてあって、手前の作業台で女の子が熱心に研究か観察してる絵を描き起こした感じです。

──すべてが声で構成されている楽曲のどの声に歌詞をつけ、どの声には歌詞をつけないのかは、この作品におけるポイントのひとつだったとのお話を悠木さんからお伺いしました。藤林さんはこの点をどのように受け取り、それぞれの曲ではどのように判断して作詞を行なったのでしょうか?

藤林 この辺の具体的な作業については“やってみないとわかんないよね~”っぽく受け止めてました。「アイオイアオオイ」に関しては最初から“言葉ではない言葉で歌いたい”とのアイデアが碧ちゃんから出ていたので(作詞家としてはとても困惑しました)、では普通の歌詞から作って、のちに子音を抜こうという提案はさせていただきました。ただ重ねるコーラスにも母音があるだろうし、ぶつからないのかな?という不安もあったのですが、そこはスーパーな佐藤さん(佐藤正和プロデューサー)がいるから大丈夫でしょうと安心してました(笑)。

 

■03|碧ちゃんが可愛いからという必然かと(笑)

──ではここからは、悠木さんが藤林さんの歌詞についてにこにこしながら語ってくれた言葉の中からピックアップして、藤林さんご本人にぶつけさせていただこうかと……あらかじめお伝えしておきますと藤林さん、ここから悠木さんにべた褒めされ続けます(笑)。まずは「読むだけで匂いとかがしてくる言葉選び」とのことでした。悠木さんはサウンドについても「エンジニアさんのこだわりのおかげで匂いまで伝わりそうな音になっている」と喜んでいましたので、そこは悠木さんにとって大切な要素のようです。

藤林 やっぱり碧ちゃんは感覚の人で合ってるんだなぁと安堵すると共に素直に嬉しく思います。聴かせていただいた作品も、雪の日のツンとした匂いやオイルストーブの匂い、腐葉土の匂いを感じました。

──続いての絶賛ポイントは「しかも選ぶ言葉がかわいらしい」とのことです。

藤林 それは碧ちゃんが可愛いからという必然かと(笑)。

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──悠木さんが表現する「かわいい」は、ただ純粋にかわいいだけではなく、毒も含んでいたり裏もありそうだったり、一筋縄ではいかない気もします。なお藤林さんご自身の「かわいい」観はどういったものでしょう?特に意識して合わせにいかなくても、悠木さんのそれと重なっているのでしょうか?

藤林 いまだにきちんと重なっているかはよくわからないのですが…。昔、パンジーが怖いという碧ちゃんのLINEにうまく返せなかった記憶があります(笑)。でも、非現実的なイマジネーションというか、実は怖い童話みたいな世界観はとても好きです。

──その「選ぶ言葉がかわいらしい」からさらに「かわらいしい上に耳心地もいい」と続きます。聴いたときの耳心地、悠木さんにとっては歌ったときの歌い心地でもあるのでしょうが、その心地好さをメロディやリズムに乗せるというのは藤林さんのこだわりポイントでもありますか?

藤林 もちろん考えます、が私自身の感覚が万人に共通なわけではないので碧ちゃんという声のプロにそうトリートメントしてもらってることも多々あるのではないかと思います。

──そして「文字として見たときもかわいらしい」です。音としてだけでなく、文字をビジュアルとして見たときもかわいらいしいといった意味合いですね。ここも悠木さんの世界を表現するために大切な要素だとお考えですか?

藤林 碧ちゃんに提供させていただく歌詞ほど名詞を多用することってないと思います。それが碧ちゃんの世界観を絵に起こす言葉になればいいなぁと思っています。

──最後に『トコワカノクニ』を改めて聴いての感想や、『トコワカノクニ』を完成させた悠木さんへのメッセージなどがございましたらお願いいたします。

藤林 まずはお疲れ様でした! 多忙な中、大変な作業だったと思います。また新しい碧ちゃんの絵本がライブラリに増えて私も嬉しいです。そこは“トコワカノクニ”だったのですね。ヤギっぽい彼奴がヘンテコな季節を駆け回っているのが見えました。

 

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藤林聖子
J-POPやHIPHOP、R&Bから、アイドルやアニメ・声優作品、また特撮作品まで幅広いフィールドで活躍する作詞家。悠木 碧の作品では、デビュー・ミニ・アルバム『プティパ』に収録されている「Baby Dolly Alice」から携わっており、『イシュメル』『トコワカノクニ』では全曲の作詞を手がけている。

●藤林聖子が作詞を手がけた作品のレビューはこちら

 

通常ジャケット悠木 碧
トコワカノクニ

FlyingDog
2016.12.14

FLAC・WAV 96kHz/24bit

ハイレゾ版はこちら

e-onkyo music
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mora

 収録曲

 1.アイオイアオオイ
   作詞:藤林聖子 作曲・編曲:bermei.inazawa

 2.サンクチュアリ
   作詞:藤林聖子 作曲・編曲:inktrans

 3.マシュバルーン
   作詞:藤林聖子 作曲・編曲:bermei.inazawa

 4.鍵穴ラボ
   作詞:藤林聖子 作曲・編曲:inktrans

 5.レゼトワール
   作詞:藤林聖子 作曲・編曲:kidlit

 6.マシロキマボロシ
   作詞:藤林聖子 作曲・編曲:bermei.inazawa